トランプはやはり貧困層に支持されて勝利したのではないか?

すごいことになってしまった。2016年の米国大統領選挙はトランプ候補が大統領に当選してしまった。 登場した当初は、ギャクかなにかかと思ったが、何故か大統領の座に上り詰めてしまった。

今後、彼がなぜ大統領になったのか分析されると思うが、次のような趣旨の話を見つけた。

トランプの支持者は、富裕層であるという主張だ。

確かに選挙結果の統計を見るとたしかに、富裕層がトランプを支持している。

各属性の支持率についてはこちらのwikipediaを参考にした。

United States presidential election, 2016 - Wikipedia

世帯所得別の投票率はこちら。

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青がヒラリー、赤がトランプだ。所得3万ドル以下の世帯、及び、5万ドル未満の世帯が、ヒラリーを支持していることがわかる。

でも、アメリカ大統領選挙の仕組みは独特で、ちょっとコレだけでは話は終わらない。

アメリカの選挙制度、基礎ポイントと、不動ポイントを奪い合って勝者を決める。

アメリカの選挙制度は、選挙人制度と言う独特の制度がある。各州で応援する大統領候補に投票できる権利をもった一群の人がいる。選挙ではその人を選ぶのだ。選挙人は全体で、540人くらいいて、270人を取れば大統領に当選できる。各州には選挙人の数を割り振っていて、その州で勝った候補が、選挙人を総取りできる。例えば、ヒラリーが、カリフォルニア州を取れば選挙人は55人取れる。

アメリカでは、民主党が強い地盤、共和党が強い地盤があり、よほどのことがない限り、贔屓の党が勝つという地域がある。その他、選挙のたびに、勝つ党が違う、スィングステートという州がある。また、共和党、民主党ともにそれぞれ自分の強い属性と言うものを持っている。例えば共和党はもともと富裕層の票を集めていて、民主党貧困層の票を集めている。

わかりやすくゲームに例えると、大体共和党民主党で、160ポイントづつ基礎ポイントを持っていて、残りの220ポイントくらいの浮動ポイントを奪い合うということをやっている。

図にするとこんな感じ。

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このように考えると、取れる戦略は、次の3つになる。

  1. 自分の基礎ポイントを防衛する
  2. 相手の基礎ポイントを奪う。
  3. 浮動ポイントを取り込む。

先程、貧困層は、ヒラリーを支持していると書いた。でも上に書いたようにもともと民主党共和党ともに得意な属性を持っているので、それが過去の選挙からどのように変動したかのほうが、重要である。

オバマvsマケイン、オバマvsロムニーからどのように変化したか?

2008年から、アメリカ大統領選挙は三回行われている。 2008年、2012年、2016年の三回だ。

2012->2016 オバマvsロムニーとヒラリーvsトランプ

2012年は、オバマ(民主党) vs ロムニー(共和党) で争われた*1

2012年の投票者属性はこちらにある。

United States presidential election, 2012 - Wikipedia

この際の、世帯収入別投票を見てみよう。

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世帯収入、3万ドル以下、及び5万ドル以下が、オバマ(民主党)に投票しているという意味では支持は変わらない。しかし、その投票率はかなり異なる。3万ドル以下の世帯では、オバマ(63%)->ヒラリー(53%)に10ポイント減り、ロムニー(35%) -> トランプ(41%)と6ポイント増えている。条件の違うパーセンテージをそのまま比較するのは注意が必要だが、それでも、3万ドルの層が、投票をトランプに切り替えているのではないかと考えられる。2012年->2016年の変化を、その他の世帯年収も合わせて、増減をヒートマップにした。

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世帯収入3万ドル以下では、民主党(ヒラリー)が前回より10ポイント下げて、トランプは、6ポイント増えている。面白いのは、10万ドル以上の人は、共和党は減らし、民主党とその他政党に流れている*2

2008->2016 オバマvsマケインとヒラリーvsトランプ

2008年は、オバマ(民主党)vs マケイン(共和党)で争われた。

2008年の投票者属性はこちらにある。

United States presidential election, 2008 - Wikipedia

再び、世帯年収別投票を見てみよう。

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この調査時は、2012,2016と比較して金額の区分が細かい。それぞれの階級値の割合がついているので、実数に直して、1万5千ドル以下と3万ドル以下をの実数を合算して、割合を算出した。その結果がこちら。

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2008年->2016年の変化を、その他の世帯年収も合わせて、増減をヒートマップにした。

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2008と2016の比較では、3万ドルの世帯では、民主党は支持を11ポイント失い、共和党は8ポイント増やしている。

おもしろことに2008年と比べても2016年は、10万ドルを超える世帯では支持を失っている(保護貿易の強い制度はビジネス層に受けが悪いのだろう)。

どこを捨てどこを取ったのか?

上に書いたように、大統領選挙は、

  1. 自分の基礎ポイントを防衛する
  2. 相手の基礎ポイントを奪う。
  3. 浮動ポイントを取り込む。

という戦略で戦われる。トランプの支持層は富裕層であると言うのは若干違うように感じていて、より正確に云うと、共和党の支持層は富裕層である。しかし、トランプは、その富裕層の支持を削り、貧困層の票を取りに行った。というのが正しいのではないかと思われる。絶対値としての投票率ではなく、前回や前々回の差分を見たほうが、個々の候補の戦略が読み取れるのかも知れない。wikipediaでは2008年以降しか、世帯年収ごとの投票行動を取れなかった。どなたか、ブッシュ政権(共和党政権)時の投票行動と比較すると、その差異がよりわかりやすくなるのかも知れない。*3

追記

ロムニーとトランプの取った票の推移としてはこちらがわかりやすい。中西部のラストベルトの票がトランプに流れている。

*1:wikipedia上では2008年より前の世帯収入別の投票行動のデータが見つけられなかった

*2:保護貿易を推進するという主張はビジネス層からすれば正気の沙汰ではないと考えられているのだろう

*3:パーセンテージの比較じゃなくて、階級値の割合もわかるので、一旦実数に直して比較したほうが良いがめんどくさいのでやってない。