ニコニコ動画はオワコン化したか?

概要

定期的にニコニコ動画はオワコンであるとか、ニコニコ動画はあとn年で終了という記事が注目を集める。最近も次の記事が注目を集めた。

ニコニコ動画は確実にあと2~3年で終了する|ワッチョイ|note

「まだニコ動には需要がある」と思ってる人達が一部存在していた件|ワッチョイ|note

しかしそのような記事に数字の裏付けあったことはあまりない。 上の記事でも自分の思いが先行しており、もしその仮定が正しいのならばどのようにデータとして観察できるかという話はない。 今回はそれでは上の主張は妥当であるか?もしその仮定が正しいならそれは数値にどのように現れるかという点を検証していく。

上記ブログの主張

上記ブログでは次のような主張を行っている。

  • 今は面白い動画が無く、 (かっては)面白い動画がたくさんあった。そのため視聴者は離反した。
  • スマホでが主流になり、若い優秀なクリエイターがPCが必要な凝った動画を作らなくなった。
  • スマホではコメントが打ちづらいので、動画にコメントがもらえず、承認欲求が満たしづらい。

それでは実際にそうなのかを調べてみたい

数値による検証

オワコン化の定義

オワコンと言っても人によって定義が異なる。自分にとって面白い動画がないという定義から、超会議の参加者数や単に動画のランナップが気に食わないのでオワコンだという人もいる。ここでの定義は、プレミアム会員数及び下で提示した一日あたりの動画視聴回数をもとに考える。

このエントリーでの定義は、プレミアム会員数が減少に転じた2016年をオワコン化の定義として一旦仮定する。

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プレミアム会員数推移

「ニコ動」有料会員、減少ペース加速 3カ月で14万人減 - ITmedia ビジネスオンライン

また、下にあるように一日あたりの動画再生回数も、2016年をピークにしているため、2016年からいわゆるオワコン化が始まったと考える。

ニコニコ動画の一日あたりの視聴回数(3ヶ月中央値)

オワコンというと響きが良くないが、成長期を脱して、安定期もしくは衰退期に入り始めた状態のことを指すのだろう。

動画再生数、動画投稿数、コメント数の推移

まず動画再生数動画投稿数コメント数の推移を見てみよう。

http://flapi.nicovideo.jp/api/getheadline こちらのURLで、現時点の総投稿動画数、総視聴回数、総コメント数が取得できる。

ちなみに2019/08/22現在の数値は次のようになる。

総動画投稿数 総視聴数 総コメント数
16,812,782 104,683,668,503 5,667,751,094

このURLの数値を毎日取れば、その差分は一日毎の動画投稿数・視聴回数・コメント数になるはずだ。私は2011/07/07から2019/08/21 まで毎日その数値を取得している。そのデータを使えば、2011年から2018年までの、一日ごとの動画投稿数・視聴数・コメント数が分かる。

一日あたりの動画視聴数推移

まず、一日あたりの動画投稿数の推移を見てみる。日によって値の変動が激しいので3ヶ月毎にその期間の中央値を用いて集計した。

ニコニコ動画の一日あたりの視聴回数(3ヶ月中央値)

2012年には、2000万再生数だったがその後再生数は増え、2016年には3500万再生を超える。しかしその後再生数は急激に減少し、2017年には2500万再生になるが、その後減少幅は緩やかになり、2019年現在では、2000万を少し超える再生数で推移している。

一日あたりの投稿数推移

一日あたりの動画投稿数は、次のように遷移している。

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ニコニコ動画の一日あたりの動画投稿数(3ヶ月中央値)

2012年には、一日5000件あったがその後徐々に減少し、最近では一日2500件程度だ。確かに上紹介したエントリーが指摘するように動画投稿者数は減っている。1

一日あたりのコメント投稿数推移

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ニコニコ動画の一日あたりのコメント数(3ヶ月中央値)

一日あたりのコメント数は次のように推移している。

2012年に180万あったコメントは、徐々に減り2018年には40万になったが最近は、60万まで戻している。

面白い動画の減少が、ユーザの離反を招いたという仮説は正しいか?

上記エントリーでは、「面白い動画の減少」がユーザーの離反を招いたという仮説を提示している。

面白い動画の投稿数を調査することは難しい(面白いの定義が人によりまちまちだから)。しかし、面白い動画は投稿動画数の何割かだろうから投稿動画数に連動すると仮定することはできる。そうすると投稿動画数は、2012年から減り始めており、2016年までユーザーの視聴数が伸び続けていることと整合性が取れない。下の図のように、動画投稿数と視聴数の減り方に差があり、投稿数の中に一定数面白い動画があり、それが減ったのならそれに連動してもっと早くに動画視聴者数が減らなければならないはずだ。

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動画投稿数と視聴数の推移

一方、ニコニコ動画は、新規の投稿動画だけでなく過去の動画もある。そのため過去動画を見ていたため、視聴者数が減らないのではないかという仮説もあり得るだろう。 つまり、累計投稿動画数と、視聴者数を比べてみたらどうかという指摘だ。 それをグラフ化するとこうなる。

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累積動画投稿数と視聴数の推移

今度は逆に、動画は増え続けているのに、2016年を境に、再生回数は減っている。面白い動画は、動画投稿数に対して一定の比率であり、それが累積的に増えていくなら、2016年で、視聴数が減っていくことと整合性が取れない。

面白い動画の減少がユーザーの離反を招いたという仮説の結論

面白い動画の減少がユーザーの離反を招くなら、2012年のから動画視聴数は減るはず。累計の動画投稿数とも連動しておらず、面白い動画の減少がユーザーの離反を招いたという仮説はあまり支持できない。

スマホでが主流になり、若い優秀なクリエイターがPCが必要な凝った動画を作らなくなった

この仮説はどうだろう?少なくとも、2012年から、動画投稿数は減り始めており、それとそれと反比例するように、スマホのユーザーは増えているのでこの仮説は、正しいように思える。 少なくとも、それに反対するようなデータは見つからなかった。新規の動画投稿者数の推移を見れば分かるかも知れないが、私は持っていない。

スマホではコメントが打ちづらいので、動画にコメントがもらえず、承認欲求が満たしづらいという仮説

この仮説は、上記の 一日あたりのコメント投稿数推移を見れば、たしかにコメントは減っている。しかし、スマホでコメントが打ちづらいというのは本当だろうか?

ニコニコ動画では、2018年までも、動画データ、コメントデータをニコニコデータセットとして公開している。

情報学研究データリポジトリ ニコニコデータセット

全動画のコメントを公開しているので、そのコメントの文字長を調べてみれば、コメントが打ちづらいかどうかは分かる。コメントが打ちづらければ、コメント数も減るし、コメントの長さも短くなるはずだからだ。

それで、ニコニコデータセットを元に年ごとのコメントの文字長を調べてみた。平均を取ると、あらしのような長いコメントの影響を受けるので、分析には四分位数を使う。コメント投稿の年を元にその年のコメント文字長の25%位50%位75%位を調べた。

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
25%位 4 4 4 4 4 4 5
50%位 8 8 8 8 8 8 8
75%位 13 13 13 13 13 13 14
2014 2015 2016 2017 2018
25%位 5 5 5 4 5
50%位 8 9 8 8 9
75%位 14 14 14 14 14

そうすると、スマホが主流になった2018年でも、投稿されたコメントの文字長は、減ってない。むしろ増えている。8文字から9文字になっていることが分かる。 私も紹介したエントリーの作者と同じ様にスマホになるのでコメント文字長は減るのかと思ったが減らなくて驚いている。2

スマホではコメントが打ちづらいので、動画にコメントがもらえず、承認欲求が満たしづらいという仮説の結論

上記より、動画にコメントがもらえずというところは、コメント数も減っているため、妥当だと思われる。「スマホでコメントが打ちづらい」は、コメントの文字長がPCのときと変わらないのでなんとも言えない。

カテゴリごとの再生数推移

上記紹介エントリーでは、ざっくりニコニコ動画全体として考察している。しかしニコニコ動画といっても、ゲーム実況、ボーカロイド、歌ってみた、TRPGアイマスなど様々なカテゴリーがある。 ニコニコ動画全体だけ見ても、あまり詳しいことはわからない。カテゴリー毎の推移を見ることで、実際にユーザー行動にどのような変化があったかを見ている。

カテゴリーごとのランキングを見ることで、カテゴリーごとの趨勢を調査する

2019年06月25日にランキングを変更するまで、各カテゴリーごとのランキングごとに、各動画のデイリー視聴数を取得できた。3 そのデータには、total-view、total-mylist,total-resの他に、日毎の視聴数、コメント数、マイリスト数(daily-view,daily-res,daily-mylist)が手に入った。

それらカテゴリーごとの、ランキング動画の視聴数を合算すれば、そのカテゴリーの(ランキングであるが)趨勢を調べることができる。4 それらを調査したグラフは次のようになる。

各カテゴリランキング動画再生数の推移

ニコニコ動画でも特に人気の高いカテゴリのランキング入毎の再生数をグラフ化した。

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カテゴリランキング再生数推移

ゲームは、2016年10月4日より、ゲームと、ゲーム実況の2つのカテゴリに別れたが、過去からの推移を見るため、ゲーム+実況のグラフを作っている。

それで見ると、2011年から2015年までゲームカテゴリの再生数が伸び、2015年-2016年を境に、再生数は減少に転じている。

また、例のアレは、2015年に人気が出て2017年にピークになり、その後再生数は減っている。

アニメカテゴリは、2015年をピークに大体3分の2くらいの再生数になっている。 歌ってみた、エンターテイメント、ボーカロイドカテゴリーは、そこまで減ってはいない。

東方、アイマス、ボカロ、御三家の動き

ニコニコ動画では、東方、アイドルマスターボーカロイドは、御三家と呼ばれている。その3カテゴリの推移を見る。

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ニコニコ動画、御三家のランキング再生数推移

見たところ、

ボカロとアイマスは減っていない、東方はだいぶ再生数は減っている。

歌ってみた、踊ってみた、描いてみた、演奏してみたの「してみた系」

歌ってみたなどのやってみた系の推移を見る。上記エントリーでも TikTok に投稿者が移行したと書いているが、もしTikTokと競合するとしたら、やってみたのカテゴリが競合するだろう。

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やってみた系推移

2017年位から再生数は減り、2/3くらいの再生数になっている。TikTokに流れた可能性は否定できないが、再生数を見るに影響は限定的かも知れない。

ゲーム+実況カテゴリの退潮

上の各カテゴリで見たが、最も大きく減っているのは、ゲーム+実況カテゴリだ。2016年の一日250万再生から2019年に100万再生に減っている。その次に再生数があったアニメカテゴリは160万再生から100万再生と、再生数を減らしているが、アニメの番組編成によって人気が上下するようにも見える。

歌ってみたや、ボーカロイドは減っておらず、例のアレは一日50万再生から、100万再生に伸び、その後、50万再生に落ち着く。

上で定義したように、ニコニコ動画のオワコン化は、2016年から始まったと考えることができる(プレミアム会員が減少に転じ、また一日あたりの動画再生数もピークを迎える)。同時期から、ゲーム+実況の再生数も減少に転じている。その様に時期が一緒であることから、ニコニコ動画退潮に関して最も大きな影響を与えたのは、ゲーム+実況の不調であるように思える(他のカテゴリも減ってはいるがそのものカテゴリの再生数がもともと少なかったり大きなインパクトを与えてないカテゴリが多い)。

ゲーム+実況カテゴリの退潮と新しい配信環境の勃興

2016年にニコニコ動画の動画視聴数が、下方に向かうが、その時期に何が起こったかというと、TWITCHやMirrativなど、ゲーム配信により適したプラットホームの勃興だ。ニコニコ動画で最も大きなカテゴリだったゲームカテゴリが、ゲーム配信により適したプラットホームとの競争によって、ゲーム実況を見ていた層のユーザーに離反されたのではないか考えている。

この仮説に関してはそれを裏付けるデータが無いため、確度は高くない。

ニコニコ動画が活かせる資産

上で紹介したようにゲーム関連の動画はニコニコ動画では再生数が大幅に減っている。ゲーム関連のユーザー離れが起こっているのかも知れない。しかし、ボーカロイドアイマスなどのコンテンツは未だに再生数も多く、他の動画サービスにユーザーを取られたとまでは言えない。アニメも定期的に盛り上がっているのを見ても、配信するコンテンツ次第で、人が集まる可能性は残っている。

まとめ

  • 定期的にニコニコ動画オワコン説が流れる
  • しかし定量的に分析する人は少ない。
  • このエントリーでは、オワコンと言ったときの定義、またそれがいつ始まり、要因は何であるのかを調べた。
  • オワコン化は2016年から始まっており、同時期にゲーム+実況の再生数が大きく減っているため、退潮の一番大きな要因は、ゲーム視聴者のニコニコ動画離れではないかと、仮定した。

(補足)仮説に対してデータを用意するということ

ニコニコ動画の退潮に関しては様々な理由を上げる人は多いが、実際にその理由に対して、データを用意する人は少ないように思える。自分の提示した仮説がもし正しいなら、それはどのような数値に現れるかという視点を持つのは大事だ。

謝辞

ニコニコ動画は批判されることも多いが、データ分析をする人間から見ると、様々なデータを提供してくれる日本でも稀な企業だ。 例えば、 ニコニコ動画APIニコニコデータセットなど、結構多くのデータを提供してくれる。個人で、Youtubeのランキングサイトを作っているが、ランキングの取得しやすさでいうと、ニコニコ動画の方がやりやすい。 色々と大変だと思うが、このデータをオープンにするカルチャーは残していってもらえると助かる。


  1. セガリズムゲーム マイマイにように自動でニコニコ動画に投稿するゲームもあるので、そのような自動で大量に投稿するコンテンツの影響は除外していない。

  2. こちらに指摘に対して、ニコニコ動画のコメントは大半、PCから書き込まれているのではないかという指摘を頂いた。詳しくは、こちらに書いている。ニコニコ動画はオワコン化したか?という記事の落ち穂拾い - shibacowのブログ

  3. http://www.nicovideo.jp/ranking/fav/daily/all?rss=2.0 などを使えば、APIを取ることができた。

  4. ランキングの視聴数なので、埋もれた良い動画達に広く薄く再生数が集まってもそこは感知できないが、ざっくりした指標にはなるだろう。