TwitterのRT制限はReTweetにどのくらい影響を与えたか(01/09アップデート)

この記事は、TwitterのRT制限はユーザーの行動にどのくらい影響を与えたかを調べるものだ。

Twitter社によるRT制限とは何か?

twitter社ではアメリカ大統領選挙が終わる11月3日まで、ReTweetの仕様を一部変更し、投稿までワンクッション置くようになった。デマ情報がRTにより容易に拡散し、選挙結果に影響を与えることを懸念しての処置だ。

下のニュースに詳しい。

Twitter、一時的に「リツイート」機能を仕様変更 引用RTを標準に 米大統領選のデマ拡散防止で - ITmedia NEWS

この仕様変更は10月20日より実施された。

追記

12/17にRTの仕様が元に戻された。

Twitter、リツイートの仕様を元通りに 引用RTの標準化を解除 - ITmedia NEWS

RT制限でReTweetは減ったか?

それでは、実際RT投稿の数に変化があったかを見てみる。RT数が変化すれば、安易な情報拡散は抑えられたと考えて良さそうだ。

twitterにおけるtweetの取得

RT数が減ったかどうかは、twitter社でなければ本当のところはわからない。けれど、twitter社は、開発者向けに世界中の全tweetのサンプルストリームを公開している(噂では1% サンプリングだと言われている)。sampling apiのURLはこちら。 このsampling apiを使えた、日本語のtweet を1日50-60万件程度取得できることは分かっている。その中にはRTも含まれているので、そのRT数に変化があれば、RT制限がユーザー行動に影響を与えたことがわかる。

10/20からReTweet数は減ったか?

それでは、10/20からRT数は減少したかどうか見てみよう。

この表は、10/01から2021/01/08までの、samplingデータで取得できた tweet数(含むRT) RT数、RT数/tweet数の割合だ。

日付 tweet RT数 RT割合
2020-10-01 690551 221863 32.13%
2020-10-02 685877 231418 33.74%
2020-10-03 748040 240457 32.14%
2020-10-04 799082 254977 31.91%
2020-10-05 699946 235207 33.60%
2020-10-06 669066 223047 33.34%
2020-10-07 674876 228355 33.84%
2020-10-08 675358 228400 33.82%
2020-10-09 689098 233405 33.87%
2020-10-10 747264 246924 33.04%
2020-10-11 765035 242652 31.72%
2020-10-12 706488 237304 33.59%
2020-10-13 691273 227149 32.86%
2020-10-14 694746 229781 33.07%
2020-10-15 680403 228537 33.59%
2020-10-16 641459 214509 33.44%
2020-10-17 723295 237275 32.80%
2020-10-18 740532 240626 32.49%
2020-10-19 677238 235070 34.71%
2020-10-20 650856 217086 33.35%
2020-10-21 651168 200702 30.82%
2020-10-22 644778 178397 27.67%
2020-10-23 543740 154692 28.45%
2020-10-24 677963 175990 25.96%
2020-10-25 703225 191819 27.28%
2020-10-26 638824 177427 27.77%
2020-10-27 595821 166165 27.89%
2020-10-28 612608 168367 27.48%
2020-10-29 77791 19644 25.25%
2020-10-30 219348 60386 27.53%
2020-10-31 664877 183234 27.56%
2020-11-01 686443 186992 27.24%
2020-11-02 616735 173536 28.14%
2020-11-03 695696 183441 26.37%
2020-11-04 621634 172184 27.70%
2020-11-05 608905 170548 28.01%
2020-11-06 615612 171747 27.90%
2020-11-07 654926 175928 26.86%
2020-11-08 689164 187142 27.15%
2020-11-09 617126 174699 28.31%
2020-11-10 607419 169847 27.96%
2020-11-11 626685 180690 28.83%
2020-11-12 594410 164133 27.61%
2020-11-13 618062 183000 29.61%
2020-11-14 645281 180257 27.93%
2020-11-15 656154 186123 28.37%
2020-11-16 612159 183394 29.96%
2020-11-17 590167 173469 29.39%
2020-11-18 598874 174707 29.17%
2020-11-19 608841 178534 29.32%
2020-11-20 619089 183374 29.62%
2020-11-21 654064 179479 27.44%
2020-11-22 679832 182505 26.85%
2020-11-23 697538 194599 27.90%
2020-11-24 587562 161407 27.47%
2020-11-25 648128 187566 28.94%
2020-11-26 602480 177829 29.52%
2020-11-27 612675 181333 29.60%
2020-11-28 653125 180378 27.62%
2020-11-29 668013 182924 27.38%
2020-11-30 614438 174598 28.42%
2020-12-01 627858 181623 28.93%
2020-12-02 634233 184964 29.16%
2020-12-03 599364 175042 29.20%
2020-12-04 624563 182056 29.15%
2020-12-05 654186 185674 28.38%
2020-12-06 666418 187843 28.19%
2020-12-07 617758 185139 29.97%
2020-12-08 609741 181524 29.77%
2020-12-09 629692 183871 29.20%
2020-12-10 614813 177816 28.92%
2020-12-11 635768 191048 30.05%
2020-12-12 662600 189167 28.55%
2020-12-13 689834 195236 28.30%
2020-12-14 656330 190079 28.96%
2020-12-15 522548 152112 29.11%
2020-12-16 567236 169432 29.87%
2020-12-17 625476 192753 30.82%
2020-12-18 638309 204260 32.00%
2020-12-19 683090 209762 30.71%
2020-12-20 721675 214321 29.70%
2020-12-21 660909 209682 31.73%
2020-12-22 623339 199401 31.99%
2020-12-23 640598 205037 32.01%
2020-12-24 737615 236418 32.05%
2020-12-25 754718 248686 32.95%
2020-12-26 694447 219020 31.54%
2020-12-27 700553 216693 30.93%
2020-12-28 687827 211169 30.70%
2020-12-29 700343 208560 29.78%
2020-12-30 731401 218421 29.86%
2020-12-31 968526 258570 26.70%
2021-01-01 955762 286696 30.00%
2021-01-02 709204 210906 29.74%
2021-01-03 700724 207846 29.66%
2021-01-04 686298 206722 30.12%
2021-01-05 658121 204534 31.08%
2021-01-06 644607 205636 31.90%
2021-01-07 686593 227519 33.14%
2021-01-08 675304 224076 33.18%

グラフにすると次のようになる。

f:id:shibacow:20210110134104p:plain

オレンジの線がリツイート率(全ツイートにおけるリツイート割合)だ(右目盛り)。実行された10/20から5%程度減っていることがわかる。仕様を元に戻した12/17以降、徐々にではあるが、元の数値 33%に戻りつつある。

10/29,10/30でツイート数、リツイート数が減っているのは元になるデータの取得に失敗したためだ(すいません)。両方失敗したので、同じ量減っており、リツイート割合は影響を受けない。

RT数は減っている。

日毎の推移を見る限り、tweet数は減ってないが、RT数は、23万RT台から16万RT台に落ちている。 RTをするために一瞬躊躇させることでRTを思いとどまらせる効果はあったと考えていよいかもしれない。 また、仕様が戻った12/17以降20万に戻ったので、やはりデフォルトで引用RTにする効果はあったようだ。 ただ、当初の目的であるデマ情報RTの抑制が出来たかどうかは、今後具体的なRTの中身を見て調査する必要がありそうだ。

実行されるナッジ

ナッジとは、もともとは肘で軽く突くを意味しており、アーキテクチャーやユーザー体験を制御することで、一定の公共的な目的を達成させることの総称だ。

日立のサイトから説明を引用しよう

ナッジ(nudge)とは、直訳すると「ひじで軽く突く」という意味です。行動経済学や行動科学分野において、人々が強制によってではなく自発的に望ましい行動を選択するよう促す仕掛けや手法を示す用語として用いられています。これは、その物や現象の良しあしに対する客観的な絶対評価よりも、物事をどう感じるかという主観的な比較評価により人間の選択が左右される心理傾向を利用したものです。

ポイントは、このRT数の減少は、twitter社が、ユーザーに対して 強制 してやらせた訳ではないということだ。twitter社はユーザーに対してRTするなと命令しなかった。RTすれば罰金を取ったり、アカウントを停止すると脅すこともなかった。ただ、RTボタンを押したあと、メッセージを書き込む画面を表示しただけだ。そして、ユーザーは今でも普通にRTできる。RT画面で何も書き込まずそのままRT押せば、今まで通りのRTが行える。

ポイントは、特に高圧的な態度を取ったりユーザーを説得することなしにユーザー行動を制御でいる点にある。

そして、この行為は、一私企業の行為のため、公共機関のような合意形成なしで行える。そして、上で紹介した記事が、アメリカ大統領選挙でのデマ情報の抑制のために行われたと書いたように、この行為は、アメリカ大統領選にすら影響を与えられる(あるいは影響を与えると危惧されている)。

ナッジなどは、まだ研究室段階であまりやられてないのかと考えていたが、今回twitter社は世界第級のSNS上で、特に反対の声を挙げられるわけでもなく、普通に実行してみせた。なかなかすごい時代になったものだ。

ナッジと設計主義

良くナッジという言葉は法学者や官僚から聞くが、よく考えたら法学者や官僚ってナッジの設計がうまいかどうかについては疑問符がつく。なぜなら法律はバックに実力組織(警察など)が控えており、無理やり命令を聞かせられる。一方、ナッジはそのような強制力は無い(強制力がなくても動くことを期待される)。そのため設計したが、意図通りに動かないとかユーザーが思ったふうに動かない例は増えるだろう。

むしろ、ユーザーが自分たちの意図通りに動かないことを「前提に」PDCAサイクルを回す文化があるWebサービスの企画やソーシャルゲームの運営のほうがこの手のノウハウをもっている。

ナッジで一番やってはいけないことは、「賢い俺様が考えた仕組みなら上手くいく」という態度だ。ソーシャルゲームの運営で最初に教え込まれるのは「ユーザーは想定通りに動かない」という事実だ。

謝辞

このようなデータを公開してくるtwitterに感謝する。

その他雑感

  • アメリカ大腸選挙の都合に振り回される我々って・・。